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2000年01月13日

山男魚 「鶴見川からモントレーへ 12」

95/10/22 22:47

「鶴見川からモントレ-へ」 釣りによって出会った情景と人々 その12

第十二章  「奥利根での釣り」


 あれはいつの事だったであろうか、1980年か1981年の頃であると思う。雑誌や新聞によると「奥利根」と言う、利根川の最上流は尺以上の岩魚が入れ食い状態で釣れる所であると評判であった。

 釣り仲間の間では、いつか行って見たい所と話が高まっていた。そんなある日、話に聞いている奥利根とやらに一回行って見ようではないかと話がまとまった。季節は、山吹の花がいっぱい咲いていたのを憶えているから、五月の終わり頃ではなかったかと思う。

 行くメンバ-は、やっさん、こんちゃん、なしやん、、僕の四人である。五万分の一の地図や奥利根を紹介してある雑誌などを揃えて、研究した。ああでもない、こうでもない、と勝手なことばかり言っているが、話をしていると、夢が広がって実に楽しい時がたつ。

 奥利根の奥の沢に行くためには、奥利根湖と言う人工湖を渡らなければならない。そのためにはモ-タ-付きのボ-トが必要。ボ-トはこんちゃんが知り合いからいつも桂川に浮かべてある物を借りることとし、エンジンはやっさんの知り合いから借りることとした。

 出発の日に桂川からボ-トを皆でエッチラオッチラ引っ張り上げ、こんちゃんの車(スバル、4WD)の屋根のル-フキャリア-に乗せロ-プ等を用いて固定する。これが木製のボ-トであるもんでとても重い。

 ボ-ト用のエンジンもトランクに積み込む。こちら(都留)を早めに出発して現地には翌日の朝早く着こうと計画した。各人の準備も整い、準備万端。奥利根目指して出発である。

 高速道路を利用してのドライブで高速道路の入口で係員に、「そんな、重そうな物を屋根の上に積んでいて大丈夫ですか?」と注意を受けるが「大丈夫、大丈夫」と言い切って高速に乗せてもらう。

 ボ-トはやはりかなり重い、過負荷だったかも知れない。走っている内に上でミシミシ音がする。大丈夫、大丈夫と言った物の心配である。更に走り続けたが、ついにボ-トを支えている支柱が一本折れてしまった。

 ボ-トが今にも崩れて落ちてきそうであり、これ以上走り続けるのは無理。途中で高速を降り、適当な場所に車を止めてボ-トを下ろし、なしやんと僕がボ-トの見張りに残り、こんちゃんとやっさんとで近くの車部品ショップに更に丈夫なル-フキャリア-を買いに行った。

 しかし、一時間経っても二時間経っても戻ってこない。梨やんと二人でだんだん心配になって来る。それから三十分位経ってやっと二人が帰って来た。

「いやぁ-、みゃ-った、みゃ-った、なかなか店が見つからなくて、ボ-トをほっぽらかして帰らなきゃならね-かと思った、でもやっとこさで見つかったよ」

 待っている二人もほっとした。キャリア-を補強し、ボ-トを積みなおして再出発。更に高速道路を通って、やっとの思いで奥利根湖の畔に着く。この年は雨が少なかったせいか水量が非常に少なく、湖面ははるかに下である。

 駐車場に車を入れボ-トを降ろす。この湖を渡った向こう側に、湖に流れ込む沢が何本かあり、そこが我々の目的地である。とにかくボ-トで湖を渡らなければならない。

 四人でボ-トとエンジンを担ぎ上げ、エッチラオッチラと水辺まで運ぶ、時間も余り無いので早速ボ-トを水面に浮かべ、エンジンをセットし、スタ-タ-の紐を引っ張る。ブルンブルンと小気味よい音が響き渡り、エンジンが掛かり、回転数が上がる。

 「ヤッホ-」いよいよ、夢に見た釣場目掛けて出発だ。各人、釣り竿やら仕掛けやらの道具は積み込んである。準備は万全万端だ。ところが、走りだして、十分もすると、プスンプスンと言ってエンジンが止まってしまった。

 ガソリンタンクを開け、ガソリンの残量を調べたり、スパ-クプラグを外してプラグを調べたり、キャブレタ-を調べたりしたがどこにも異常は無い。

 「おかしい、来る前に十分テストしてきたんだ。こんなはずは無い」やっさんが呟く。再度、エンジンを掛けると、何の異常もなく走りだす。しかし、又、五分か十分かすると、エンジンが止まってしまう。

 どうなっているんだ。再度、エンジンを点検する。その間、少しでも進もうと備え付きのオ-ルを使って、手漕ぎで進もうとするがなかなか進まない。あれやこれややって、エンジンをかけると又掛かる。

 しかしすぐ止まってしまう。こんなことを何回か繰り返している内に湖の真ん中近くにきてしまった。このままじゃ、抜き差しならない、弱った!
僕がふっとガソリンタンクの蓋を見てみると、なんと空気抜けの小さな穴が詰まっているでは無いか。

 「なんてこった! これじゃタンクの中が減圧になってエンジンも止まる訳だ。おい、みんなエンジン不調の原因が判ったぞ」

 蓋の穴に詰まっているゴミを取り除きエンジンを回すと今度は順調そのもの。ボ-トも気持ち良く快調に進んで行く。原因が分かって皆で大笑いしたのは良いが、なんと言う時間の無駄をしてしまったんだ。

 それからはエンジンも快調に回転し、対岸目指して進む。対岸の沢の出口近くでボ-トを止め、増水するとまずいということでボ-トを岸よりはるか上まで上げて、ロ-プで木株に縛りつけ、河原に降りる。

 ところが川から湖に流れ込む近くは、地盤が柔らかく、ズブズブと足が膝近くまでめり込んでしまう。片足だけなら何とかなるが、これが両足と言う事になると全く身動きが出来なくなってしまう。僕も勇んで河原まで来たは良いが、両足を泥沼に取られてしまい身動きが取れなくなってしまった。

「お-い! たすけてくれ、身動きできね-!」

 大声で叫んで、なしやんに引っ張り上げてもらう。こんな所へ一人できたんじゃ偉いことになる。暫く上流に向かって進んで行くと、川の流れも渓流らしくなる。流れの中を見てみると、岩の影、ブッシュの下、淵の中を見ると、ウグイに混じって良型の岩魚が見える。

川を渡ると足元から魚が飛びだす。

「こりゃ、噂どうりの渓流だぜ、もう我慢ならねえ-、ここから釣りはじめるべ-」

 異論は無い。いそいそと仕掛けをセットし、釣り始める。ところが思う様になかなか釣れない。見える魚は釣れないと言う話があるが、この話は本当かも知れない。ここまで苦労してきたのに、釣れるのはウグイと小さな岩魚ばかり。たまに二十センチ位の岩魚が出るには出るが、ここまで来て二十センチは無いだろう。

「まいったな、尺以上を期待してきたのにこれじゃしょうがねぇな、もう少しがんばってみるか」

 気合を入れなおしてがんばるがなかなか良い型の物は出ない。そうこうしているうちに、にわかに空が暗くなり、雨が降りそうな気配。雨が降ってきて鉄砲水など出たらえらいことになる。「無謀な釣り計画を立て、山梨から来たアホ四名遭難」と新聞にのることになりかねない。

「どうするべぇか? 雨が降りそうだぜ、ここの雨は降りだすとすごいらしいぜ」

「すぐ鉄砲水なども出るらしい」「おいやばいぜ! 川の水かさが増えてきて、濁ってきた」

「すぐひきあげべぇ」

 そこは皆慎重な連中で、釣りをやめて早々に引き上げることにした。釣りも大切で後ろ髪引かれる思い。だけど、命の方がもっと大切。ボ-トの置いてある場所に戻ってびっくりした。湖の水量が知らない間に増水していて、あと三十分もすればボ-トが流されるところだった。ずっと上に上げておいて良かった。

 皆でボ-トを下ろし慌てて戻った。車を駐車してある近くまで戻って一安心。丁度その頃、雨が本格的に降り始めて来た。ボ-トを車の屋根に上げ、一息入れていると、違う沢に入った連中が我々と同じ様に戻ってきた。

 この近くから来た人らしい。釣果を聞いて見ると、かなり大物が出たとのこと。そんな話はにわかに信じがたく、釣った魚を見せて貰うことにした。大型のク-ラ-を覗きこむと、尻尾が手の平くらいある岩魚が数匹、体をくねらして入っているではないか。

 我々四人とも、ぐっと息を呑み込み一言も発することが出来なかった。あんなでかい岩魚は後にも先にも見たことが無い。多分、四十から五十センチはあったに違いない。皆でショックを受けて、俯きかげんで帰路についた。

 車が走り始めて暫くすると、バケツから水をぶちまける様に、物凄い雨が降ってきた。ワイパ-を高速で回転しても前が見えない位である。雨の一粒の大きさが径1cm位ありそうだ。

更に走っていると、車の屋根でギシギシかと音がする。ボ-トに水が溜まって重たくなってきた様である。俺たちはなんて馬鹿なんだ。馬鹿なことを事をしてしまった、ちょっと考えればこんな事には無らないのに。このままでは、下手すると車が潰されてしまうぜ。

車を止め、びしょびしょになりながら、ボ-トに溜まった水をかきだし、今度は底を上側にして積みなおした。それにしても凄い雨であった。よれよれになりながらも何とか家にたどりついた。こんちゃんの車の屋根はボコボコになり散々な目に会ってしまったが想い出深い釣行であった。
                              〔山男魚〕




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